蒼夏の螺旋

   “決戦日のご馳走は♪
 


爽やかという言葉は秋の季語だそうで。
秋は体を動かすには最適なさわやかな季節で、
紅葉という眼福を堪能するべく行楽地へ出かける人も多数。
そういったアクティブなお楽しみもあるが、
深まりゆくほど寒さも増すので、
温泉に浸かって美味しいものを食べてほこほこしたいという
早々と冬偏りのお楽しみに走る人もいて。

 “とか何とか云ってるうちに、随分と寒くなっちまったけどな。”

…偏りがどうのどころか、
ところによっては早めの雪まで降ってますしね。(う〜ん)
ほんの 4,5日でこうまで進もうとは思わなんだほどの駆け足で、
山々や街路樹の赤や黄色の秋の装いを背景に、
ダウンジャケットやストールがないといられぬ寒さが訪のうており。

 “ウチも朝晩は暖房入れてるしな。”

本格的な武装はまだ早いとしつつ、
それでもざっくりした網目のストールを巻いて、
その中へ小さな顎先を突っ込んでおいでの小さな訪問者。
ショッピングモールの中を、軽快な足取りで闊歩しておいで。
ちなみに、別のお部屋の話にも出しましたが、
江戸時代くらいの昔から、
「暖房器具使い始めの日」は 亥の月亥の日と言われているそうで。
新しいものは晴れた日の午前中に使い始めろという謂れみたいなもの、
それほど神経質になる必要はないのですが、
それでも結構引き継がれてきたものであるらしく。
「亥の月」は十月。旧暦の、とすると今の暦では1か月ほどずれるので大体今時分。
でもそれだけじゃあないらしく。
十二支における「亥」は、五行説では「水気」、陰陽説では「陰気」。
水は火に打ち克つ力で、陰気は猛々しさの無い穏やかな力。
よって「亥」には火の力を穏やかに押さえ、制御する働きがあり、
そのため亥の日や、猪(=亥)には火事除け、火塞ぎの霊力があるとされていて。
ほんの少しほど昔だと、暖房器具といや火鉢や囲炉裏、こたつにも練炭などを使っており、
今以上に直接的に火を焚いていたがため。
それらを使い始めると同時
火の元に注意しようねという戒めも込めて、
おこた開きは亥の日というよな決まりごとが広まってたようです。
特に寒がりということはない、
むしろ雪が降るのは嬉しいかもしれないという鼻歌混じりに足を運んだのは、
ご近所の大きなスーパーマーケットで。

 “まあ、美味いもの食いたくなるのは判るよな。”

何と言っても収穫の秋だし、
今年は異常気象のせいで特段に野菜が高いとは言っても
そろそろ根菜は値下がりしもしよう。
シチューやポトフといった煮込み系とか、
おでんもいいな、煮込みうどんの天ぷら入りのも美味いよな。
今年こそ海老天を上手に揚げられるようになりたいな。
かき揚げの方こそ難しいそうだけど、
豪華に揚げたい海老だって難しい。
微妙にフリッターみたいになるのが残念だもんな、なんて。
入り口近くに塔のように積み上げられてたところから、
自然な習慣動作、籠を1つ手にすると、
明るい照明を浴び、綺羅星のごとくに様々な商品が居並ぶ店内へと足を進める。

 “まずはのご飯前には…。”

棒状に切った餅(何と最近では市販のがあるらしい)のうえへ
チーズをやや厚に乗っけて、
春巻きの皮で巻いてカラッと揚げれば、
カリッサクッという歯ごたえの後、
餅とチーズが程よく伸びる面白い食感の 香ばしいおやつになる。
濃い味がお好みならケチャップをつけてもいい、
焼き肉のたれやピザソースをつけてもいい。
支度さえ整っておれば速攻で作れるので、まずはそれをとカウントし、
春巻きの皮をゲット。
そのまま調味料の並ぶ通路をたどれば、

 “そういや、最近は涼しくなったから酢の物は作ってないなぁ。”

手巻き寿しなどもそろそろ作り納めか、
それでも子供がいる家だったら七五三にちらし寿司とか作るのだろう。
そんな可愛いPOPも出ていて、
穀物酢や米酢がお値打ちですよと呼びかけてくる。
今日は殊更に冷えるけど、蒸すほど暖房を入れる程でなし。
なので酢の物はパス…と行きたいが、

 “煮物の甘辛の味ばっかでは飽きてないかな。”

いやいや、何もそういう風味のしか作らないわけじゃない。
焼肉や鶏ハムも作るし、豚肉ともやしとキャベツで回鍋肉も作るから、
肉の香ばしさを押し出す岩塩の味とか 豆味噌の塩辛い味とか、
結構バラエティに富んだ味付けを心がけちゃあいるが、

「…む〜ん。」

そうだな、久し振りに酢豚にしようか、
甘酢のあんなら鶏カラに掛けても美味しいよな、
そうだ、揚げた肉団子に絡ませたのもいけるしなぁ…と。
そっちへもレパートリーはあることを思い出したものの、

「でもなぁ、酢の物はあんまり好きじゃなさそうだしなぁ。」

ついつい声に出して呟いてしまったのは、
バリエーションに行き詰った感が少なくはない証か。
鍋物ばっかというのも何だし、揚げ物づくのも芸がないよな気がするし。
この時期どんな服装だったかには無頓着だが、
この時期は何をメインに出してたかには、
どうでもいいでは片付けられないほどちょっとばかり焦っていたようで。
茶碗蒸しは組み込み済みだし、
でもなあ、後は焼き肉やとんかつへって献立だと
いつもと同じって感じで特別感が薄いよな。
肘のところで片腕を抱え、
その先の親指と人差し指で口許を挟むようにして
む〜〜んと考え込んでおれば、

「おや、お兄さんがご飯作るの?」

そんなお声がひょいと気安く掛けられた。
え?と顔を上げれば、店頭販売用のスペースにて、
あらびきソーセージや輸入牛肉をホットプレートで焼いてたエプロン姿のお兄さんが、
こっちを見やって“おやまあ”という朗らかな笑顔を向けており。

「なになに、お母さんへ? もしかして彼女さんへかな?」

丁度客足が引いた間合いだったか、
気さくなトーンには詮索の気配も薄く。
他のお客様を寄せるためのだしにされるわけでもなさそうで。

「毎日やってることだ。だから特別な献立のつもりじゃねぇんだけどな。」

休憩時間モードという感触へ、こちらも気負うことなく思ってたことをそのままこぼす。
すると、ちょっと意外だったか “おお”と目を見張ってから、

「そっか、家事メン、いわゆる “主夫”なんだね、お兄さん。」

うんうん そういうことかと、心得顔になる。
男だけれど、一応は料理を習慣だとするほどに慣れてる御仁。
こんな時間帯に、しかもスーパーに来るぐらいだから、
店を出してる買い出しでもなかろうし…と推察したらしく。
こういう売り場に立ってる人だから、
そういう相手と出会う機会も多いのだろう。

「で。ご家族は酢の物が苦手らしいと?」
「う〜ん、出したのをあからさまに残すほどじゃないんだけどもな。」

でも、どっちかといや、塩コショウとか
もしくは甘辛な味付けが好きなのか。
箸をつける順番が後の方になるような…。

「酒呑みだから、
 晩酌モードだと食べる量自体があんま多くはないって人だとか?」

だったら、量より種類ってなるよねと、
春巻きの皮と、ピザ用チーズ、
かまぼこにシイタケにギンナンにと、
ちょっと凝った料理でも作りましょうかというラインナップを、
メモもないまま籠へ入れてた相手へ、
推察再びを照らしてから、

「じゃあ、あんまり酢が立たない味付けにして、まずは食べてみてと勧めては?」

茶碗蒸しとかわざとにやや後出しにして、
待ってる間の箸休めって格好で、
先に出せば自然と箸も伸びるだろうし。

「中華だしに醤油とお酒とみりんにお酒。
 酢とケチャップを3対2って配合にして、しょうゆと砂糖は同量。
 お酒はあくまで風味付けだけど…。」

酸っぱさが立たない甘酢あんのレシピを教わり、

「これだと、唐揚げや肉団子や、何だったらコロッケに掛けても美味しいし。」
「うわ、それは凄いvv」

自分の好みへジャストフィットだと、ついつい声を張ってしまった小さな主夫殿。
わ〜いと喜色満面となり、メモを取ってくれたのいただいて
“ありがとな”と大きめに手を振る、
まとまりの悪い髪もあどけない、年齢不詳のキュートな主夫こと、
ロロノアさんちのルフィさん。

 “よ〜し、今年の誕生日も腹いっぱいに食わしてやるから覚悟しとけよvv”

むんと胸張り、鶏にするか豚にするか、
どっちにしてもと肉売り場へ急ぐ、その足取りも軽快で。
明日の晩餐は奥方の可愛い鼻高々笑顔つき、
きっと チョー楽しみなそれとなりそうですよ、旦那さまvv




  
HAPPY BIRTHDAY!  ZORO!



    〜Fine〜  16.11.10.


 *途中まで、天上の海のゾロの方の
  買い出しシーンでも行けそうかなと思ったのですが、
  (そして、店頭販売のところで双方の“主夫”が鉢合わせするとか・笑)
  剣豪のお誕生日ということで、今回はルフィ奥様のお話としました。
  甘酢あんが好きなのは 他でもないもーりんです。(おいおい)
  
  ちなみに、これまでにもいろいろ書いてきましたが、
  お気に入りは“大川の向こう”のさいきょーのお話ですvv(大笑)

ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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